台湾的日々漢方
エリさんは台北で、
漢方薬局を営むご両親のもとに
生まれました。
台湾の大学で音楽科を卒業し
アメリカでクラリネット奏者として
活動した後、日本の大学院へ。
卒業後、漢方ブランド「DAYLILY」を
起ち上げ、おしゃれでかわいい、
気持ちも体調も上がるような
漢方ライフを提案しています。
「台湾での漢方の存在感や立ち位置は、
日本でのそれとは少し違います」
とエリさん。
曰く、台湾での漢方は、
「もっと身近で、普段の生活にあるもの」
なんだそうです。
普段の生活に漢方があるって、
毎日漢方薬を飲んでるってこと…?
と思ったら、そうではない様子。
台湾の人たちは、漢方の知識や考え方を
普段の生活に取り入れて、
自分の体と上手に
お付き合いしているようなのです。
そんな台湾の人たちの生活について
エリさんが書いてくれることになりました。
漢方のこと、台湾の人たちのこと、
わたしたちの体のこと、
みなさんと一緒に
楽しみながら知っていきたいです。
不定期連載、編集担当は深谷です。
通称エリさん。
台湾の台北市にある漢方薬局に生まれ育つ。国立台湾師範大学音楽学科修了後、ニューヨークでクラリネット奏者として活動。その後、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科修士課程を修了。卒業後、大学院時代の先輩である小林百恵(こばやしもえ)さんと一緒に、漢方のライフスタイルブランド「DAYLILY」を起ち上げ、アジアの女の子たちの体温と気分をあげるべく活動している。
DAYLILYのウェブサイトはこちら
7.地域を見守る特別な場所、漢方薬局
5年前、日本の大学院への入学をきっかけに
東京へ来たわたし。
ある日、近所を散歩中に
古風な外観の漢方薬局を見つけた時は、
「よかった!これで、病気になっても
なんとかなる!」と、心底安心しました。
その後しばらくして風邪をひき
その漢方薬局へと向かったのですが、
いざ店内へ入ろうとすると
なんだか入りづらい。
外から店内の様子をうかがうと、
お客さんがいないだけでなく店員さんもおらず、
ショーケースにずらりと並ぶ漢方薬が
なんだか近づきがたい雰囲気を放っています。
「台湾の漢方薬局とは様子が違うなあ…」
そう思ったら、なんだか入る勇気が出ず、
結局、青山にあるおしゃれな雰囲気の
漢方薬局へ行ってしまいました。
その後、無事に風邪は治ったのですが、
あの時、近所の漢方薬局で感じたことは
ずっと心に残っています。
わたしにとって、
漢方薬局と言えば台湾の漢方薬局。
そこは、病気の人だけでなく
元気な人も訪れる場所で、
ドアの無い漢方薬局もあるくらい
オープンな雰囲気なのです。
例えば、台湾の漢方薬局は、漢方薬だけでなく
干しアワビや昆布、ナッツなどの
「南北貨(ナンベイホゥオ)」と呼ばれる
様々な乾物も販売していて、
台湾の人にとっては
ちょっとしたスーパーのような存在。
誰でも気軽に入ることができます。
わたしがよく買うのは、
干ししいたけと黒きくらげ・白きくらげ。
量が多くて安くておいしい、
料理にとても便利な食材です。
また、台湾の家庭では
漢方薬の材料である生薬を使った料理、
「薬膳」をつくる習慣があります。
そのため、漢方薬局は
漢方薬を処方するだけでなく
生薬の販売もしていて、
スパイス屋さんのようでもあります。
こちらは、薬膳初心者へ向けた薬膳セット。
羊肉爐(ヤンロウルー)、四神湯(シセンタン)、
焼酒鶏(ショウチュウケイ)など、
薬膳ごとに必要な生薬が一袋にまとまっています。
もちろんバラ売りもしていて、
ナツメを〇粒、シナモンを△グラムというように、
少量からの購入が可能です。
わたしが好きな生薬は、
シナモン、ナツメ、クコ、リュウガンなど。
シナモンは、寒い冬、ホットワインに、
ナツメ、クコ、リュウガンは
薬膳スープに使います。
薬膳の風味が好きな人には、
「滷包(ルーバォ)」という
生薬やスパイスが包まれた
台湾料理のだしパックもおすすめです。
それぞれの薬局が独自のレシピで
手づくりしているので、
薬局によって味も様々。
例えば、父が営む漢方薬局の滷包は
こんな感じです。
スープや鍋に入れると
ふわりと漢方の香りが出て、
短時間でおいしい薬膳がつくれます。
こんな風に、台湾の漢方薬局は、スーパーや
スパイス屋さんのような役割も担っていて、
病気じゃない人も気軽に入ることのできる場所。
そして、もちろん、
病気の時にも安心して頼れる存在です。
台湾では、漢方薬局が各地域に存在し、
その地域のかかりつけ病院の役割も
担っているのです。
そこでは、家庭内での出来事や
普段の生活の中での悩み、
体の小さな不調など、
あらゆることを漢方薬剤師に相談することができ、
漢方薬剤師は、その相談内容を受けて
漢方薬を処方します。
子供のころ、わたしは
父が営む漢方薬局で過ごすことが
多かったのですが、いつも、
「パパのお客さん、お話が長くて
なかなか帰らないなあ」と思っていました。
お客さんがいる間
わたしは静かにしていなければならず、
早く帰ってほしかったのです。
でも、大人になるにつれ、
お客さんが長居していた理由が
わかるようになりました。
お客さんたちはみんな、
友達に相談をするかのように
父に悩みを相談していたのですね。
お客さんの心まで理解しているからこそ
最適な漢方薬をおすすめできる。
台湾の漢方薬局は、地域の人たちの健康を
心と体の両面からケアしています。
香港とシンガポールを訪れた際に見た漢方薬局は
台湾の漢方薬局によく似ていました。
中国は訪れたことがありませんが、
中華圏の漢方薬局はみんな
似たような感じなのではと思います。
地域の人々の健康のため、
体に良い食品を販売し、
地域の人々の相談に耳を傾け、
体だけでなく、心もケアする。
大型チェーン店の登場により
台湾の漢方薬局も消えつつありますが、
地域の人々の健康を見守る、
昔ながらの漢方薬局の良さは消えてほしくない。
そう強く思います。
DAYLILYは、若い人たちにも
漢方を取り入れてもらえるように
漢方をリデザインしているブランドですが、
この昔ながらの漢方薬局が持つ良さは
変えることなく守っていきたいし、
DAYLILYも、みなさんにとって
地域の漢方薬局のような存在に
なっていきたいです。