今日は何を食べる日?―ネパールの特別な食事

インドと中国の間に位置する南アジアの国、ネパール。世界一の高さを誇るエベレストを擁し、狭い国土に多様な民族が暮らしています。

この国でJICA海外協力隊として暮らして8か月。その間に、ネパールの人々が普段とは異なる食生活を送る日があることに気づきました。それは例えば、断食をしたり、ある特定の食材を避けたり、逆に積極的に食べたり。

ネパールでは多くの人がヒンドゥー教を信仰していることもあり、そんな様子を見た当初は「これも宗教の影響なのかな」と思いました。ヒンドゥー教には「牛は神様の使いだから殺してはいけない」といった戒律があり、それによって食事内容に制限があるからです。

しかし、実際にネパールの人に話を聞いてみると、たしかにヒンドゥー教の影響もあるけれど、暦によって普段と違う食生活を送ることもあるのだそう。
それってなんだか、日本の「大みそかのお蕎⻨」の感覚に近い気がしました。「大みそかのお蕎⻨」と言えば、細く⻑いお蕎⻨にちなみ、健康⻑寿・家運⻑命を願っていただくもの。ネパールでも、人々は願いを込めて、進んであるものを食べたり、制限したり、時には断食したりするのです。

知れば知るほど奥が深い、ネパールの人々の特別な食事についてお話ししていきます。 編集担当は澤木です。


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澤木さくら

大学在学中、バングラデシュの現地NGOにてインターンシップを経験。卒業後はアパレルメーカーへ就職し、バングラデシュの縫製工場担当として勤務する。その後、インターンシップ中に出会ったJICA海外協力隊(当時は青年海外協力隊)の隊員たちの姿が忘れられず、応募を決意し退職。2019年1月より2年間の任期で、コミュニティ開発隊員としてネパールで活動を始める。

 
 

2.ちょっとこわい、ある断食の日の食事

 
 
ネパールでは、西洋暦とは別にビクラム暦という暦が公に採用されています。その暦に沿うと、西洋暦の4月にビクラム暦は新年を迎え、現在、西洋暦の12月は、ネパールでは9月ということになります。ちょっとややこしいですが、ここでもビクラム暦に沿ってお話ししていきますね。
 
 
ネパールの人たちは結構な頻度で断食をします。例えば、夫の健康長寿を祝う儀式の前日、身内の命日が近付いた時…人によっては「何曜日は断食の日!」と決めている人もいるほどです。
 
 
じゃあその日は何も食べないの?と言うとそんなことはなく、口にしてはいけないものが決まっているのです。例を挙げると、お米、塩、唐辛子、生姜、にんにく、玉ねぎなどは食べない。フルーツや乳製品、砂糖は食べてもいいとされています。
 
 
おそらく、普段の生活で一番身近な断食がエカダシ。新月と満月の日、それぞれから数えて11日目の日を指し、そのため月に1、2回やってきます。
 
 
エカダシの断食には色んな種類があるそうですが、私が経験したのは、西洋暦の7月12日、ビクラム暦のアサド月27日、新月から11日目にあたる日のエカダシ。
 
 
この日の朝、私は、時々活動を共にしている女性組合で代表を務めるマダムのおうちで朝ごはんをいただきました。そこで主食として出されたのは、お米ではなく、麦やとうもろこしを加工してつくられたチャクラというもの。
 
 
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とうもろこしのチャクラ。
 
 
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とうもろこしと麦のチャクラ。
  
 
見た目通りのやわらかな食感ながら、麦やとうもろこしのつぶつぶがダイレクトに伝わってくる食べ物です。チャクラそのものに味はなく、おかずと一緒にいただきます。
 
 
なんでもこの日にお米を食べてしまうと、口にしたお米の数だけ体に虫が湧くと言われているそう。「日中仕事をするから、という理由で普段のエカダシではお米を食べる人も、この日ばかりは絶対にお米は食べないよ」とマダムは話していました。
 
 
口にしたお米の数だけ体に虫が湧く…考えただけでぞっとしますね。そんなちょっと怖いエカダシのお話を聞きながら、お腹に良いとされるチャクラをいただきました。