プイファイさんの水彩日記

タイのバンコクで生まれ育ったプイファイさんは、
子供のころに水彩画を習っていました。
そのころから、何かおもしろいものや
心ひかれるものに出会ったとき、
感じたことや考えたことについて、
水彩で絵日記を描いています。

その絵日記がとても素敵だったので、
TSUMUGIで連載してもらうことにしました。
丁寧に描かれる水彩画と、
素直に綴られるプイファイさんの言葉を
どうぞお楽しみください。
不定期連載、編集・翻訳担当は深谷です。

プロフィールサンプル画像
Napawadee Rodjanathum(ナパワディー・ロッジャナタム)

通称プイファイさん。
タイのバンコク生まれ。チュラーロンコーン大学インダストリアルデザイン学科を卒業後、イタリアのミラノ工科大学にてストラテジックデザインの修士号を取得。現在は、カセサート大学で講師を務め、プロダクトデザインとイノベーションについて教える他、週末には水彩画のワークショップを開催している。
プイファイさんのフェイスブックページはこちら


1.ぶらりバンコク旧市街

写真サンプル

生粋のバンコクっ子なわたしですが、
バンコク旧市街、いわゆるラタナコーシン島は、
何度訪れても飽きません。
何度も訪れているのに、全く道を覚えられず、
運転しても歩いても
いつも道に迷ってしまうけれど、
そこがおもしろいのです。

決して方向音痴ではないのに、
旧市街では、自分がどこに向かっているのか
わからなくなることが多々あります。
と言うよりも、どこに向かうか、
何を目指すかを、気にしていないのかも
しれませんね。

地図も見ず、ぶらぶらと歩く。
直感的に「こっち!」と思えば方向転換。
おもしろそうな路地があれば入り、
渡りたいと思えば道を渡る。

こんな風に歩いていると、
行き止まりにぶつかったり、
もっとひどい時には、誰かのおうちに
出てしまったり(!)なんてこともあります。

写真サンプル

でもそれと同時に、期せずして
心ひかれるものに出会うこともあるのです。
陶磁器の細かな装飾が施された、
穏やかな空気の流れる小さなお寺。
居心地のよさそうなカフェや、
雰囲気のいい本屋さん。
見たことのないような美しい建物。
かわいくもすこし不気味な人形が
物干し綱にかけられていたり、
太っちょなネコが、
木陰でスヤスヤお昼寝していたり。

旧市街のぶらり旅には、
こうした素敵なものたちとの
思いがけない出会いがあります。

旧市街と一口に言っても、
そこには様々なエリアがあり、
そこで暮らす人たちも様々。

例えば、あるエリアを歩いていると、
ヨーロッパ風の建物から中国風の建物まで、
リノベーションされた新しい家もあれば
ボロボロの古い家もあります。

こうした異なるものたちが混ざり合い
ひとつの街並みをつくっているところが、
わたしはとても好きです。
統一感やまとまりがなく
カオスにさえ見えるけれど、
そこには、なにか不思議な魅力があります。

写真サンプル

こんな風に様々なエリアがある旧市街ですが、
どこへ行っても、食べ物に困ることはありません。
昔ながらのローカルな食堂や屋台、
食べ物を売り歩く人々が、あちらにもこちらにも、
そこら中にいるのです。

混み合う人気店もあるけれど、
何気なく入ったローカルなお店が、
人気店よりもおいしくすばらしかったりするので、
わたしはそういうお店に入るのが好きです。

フィルムカメラで写真を撮りながら
旧市街を歩くのも大好き。

デジタルカメラやスマートフォンと違い
フィルムカメラは、撮影枚数に限りがある。
出来上がりは現像するまでわからず、
出来上がったものを見てみると、
ピントが合っていなかったり、
明るすぎたり暗すぎたりすることも多々あります。

けれど、枚数に限りがあるからこそ、
シャッターを押すことに慎重になれる。
あれもこれも、ではなく、
本当に撮りたいと思うものと向き合える。
そして、撮るべき一瞬を待つ時間は、
目の前の「今」という時間を過ごさせてくれる。

そういうフィルムカメラは
バンコク旧市街にとてもよく似合うし、
旧市街を歩くことを
より楽しくしてくれる気がします。

写真サンプル

ワット・プラケオやワット・ポー、
王宮などの観光名所は、
海外からの旅行者の方たちで大にぎわい。

こういった場所にいると、
わたしも日本や韓国からの旅行者に見えるのか、
トゥクトゥクのドライバーさんからよく
「こんにちは」や「サランヘ」と
声をかけられます。
そんな時は、わたしも
適当に思いつく、けれど意味はわからない
日本語や韓国語を、笑顔で返します。
ドライバーさんたち、お疲れさまです!(笑)

旧市街のぶらり旅は、
どんなルートをとっていても
チャオプラヤー川で終わります。

チャオプラヤー川をながめ、
リラックスして過ごす時間は、
わたしだけじゃなく、
きっと、あらゆる人の心を
元気づけてくれるはず。

日が沈むころ、チャオプラヤー川は
いちばんうつくしい時を迎えます。
太陽が、空をピンクがかったオレンジに
染めながら沈み、きらめく水面を
たくさんのボートやフェリーが
すべるように行き交う。
旧市街のぶらり旅を締めるにふさわしい、
すばらしい光景がそこにあります。