中国のゴッホ、趙小勇さんからの手紙
中国の深圳市大芬にある油絵の街、
油画村で、20年以上にわたって
ゴッホの複製画を制作してきた趙さん。
最近は、複製画の制作だけでなく、
オリジナルの絵も制作しています。
その趙さんが、時々、お手紙を
書いてくれることになりました。
届き次第、こちらに掲載していきますね。
1972年、中国湖南省邵陽出身。1996年から、大芬油画村でゴッホの油絵の複製画を制作する。2013年にアムステルダムで本物のゴッホの油絵を観たことをきっかけに、自身もオリジナル作品を描いて生きていこうと決意する。
この趙さんの物語を中心とした映画「世界で一番ゴッホを描いた男」は、2016年にアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭で初公開された。日本では、2017年11月に、NHK「BS世界のドキュメンタリー」にて同映画の短縮版が放送、2018年10月から全国の映画館で順次公開、2019年5月にDVDが発売された。
#003(2020/05/23)
みなさんこんにちは。
前回手紙を書いたのは去年の10月でしたから、それからもう半年以上経ちますね。みなさんお変わりありませんか?
わたしや家族はみんな元気にしています。
春節に向け1月半ばに湖南省の実家へ帰省したので、コロナウイルスの流行がピークだった2月もあちらで過ごしていました。油画村のある深圳と違い、あちらは田舎で人も少ないので、そんなにピリピリせずに過ごしていました。
なので、3月に油画村へ戻って来たときは驚きました。画廊や画材屋さん、食堂など、お店がみんな閉まっていて、外には人っ子一人いなかった。
わたしも安全第一と考え、しばらくは自宅で過ごしていました。
今はずいぶん元通りの生活になってきました。5月になってから、油画村にも外国のお客さんが少しずつ見られるようになってきたかな、というところです。
コロナウイルスの流行が収まり、再びたくさんの人が油画村を訪れるようになる時に向けて、今はオリジナル作品の制作に力を入れています。
4月に、日本のお彼岸やお盆にあたる清明節で実家に帰ったのですが、村にある取り壊しの決まった古い家屋の中で、昔の農機具を見つけたんです。その瞬間、創作のインスピレーションを得ました。
農具は地味だけど、これを使って生きてきた人間のドラマがある。
「描いて残さなくては!」と思い、すぐにデッサンしました。まずは鉛筆で下描きをし、その上からペンで。
これらが何か、みなさんは分かりますか?
犂(すき)、馬鍬(まぐわ)、そして竹の笠です。
犂と馬鍬は牛にひかせて土を耕すもので、犂で掘り起こした土を馬鍬が砕いてならします。
竹の笠は、中国南部の農村で働く人のシンボルです。太陽が照り付けるときも、雨のときも、これをかぶって農作業へ出かけます。
これは唐箕(とうみ)といって、穀物に混じったもみ殻や塵を吹き分ける道具です。わたしが育った村では、何軒かの農家で一台の唐箕を共有していました。
もみ殻が付いた穀物を上から入れてハンドルを回すと、もみ殻や塵は左側の吹き出し口から排出され、きれいな穀物だけが下から出てきます。
子供のころのわたしにはこの仕組みがとても不思議で、6、7歳のころ、吹き出し口に頭を突っ込んで中を観察したのを覚えています。
これは脱穀機ですが、実物を見てスケッチしたのではなく記憶を頼りに描きました。
父が工場で働いていたので、この脱穀機の金属部分は父が働いていた工場でつくったものだったと思います。近所の人がわが家の脱穀機を借りに来ていました。
これは井戸。わたしの故郷ではなく、中国北部に多い形です。
一千世帯を超える村の人たちが、こうした一つの井戸を頼りに生活していました。
これは珍しいでしょう?綿を打つ道具です。
綿を打つにはいくつもの過程があって、かなりの技術と体力が要るんですよ。子供のころ、村で綿を打つ作業をしている人を見るのがおもしろくて好きでした。
油画村に帰って来てからは、これらスケッチしたものをひたすら油絵にしています。
これまでオリジナル作品には大きなテーマがなく、思いつくままに描いていましたが、今回、自分にとって大きなテーマを見つけることができたので、ぜひシリーズで描きたいと考えています。
シリーズタイトルは「智慧农村」。農村の知恵という意味です。
中国の北部と南部の農村で使われていた農具を描いて残そうと思っているので、全部描いたら20~30作品くらいになるかもしれません。
描きたいもの、描く使命があると感じるものを得たので、今、描くのが止まらないし本当に楽しい!
このシリーズが完成したら、ぜひみなさんに見ていただきたいです。