プイファイさんの水彩日記

タイのバンコクで生まれ育ったプイファイさんは、
子供のころに水彩画を習っていました。
そのころから、何かおもしろいものや
心ひかれるものに出会ったとき、
感じたことや考えたことについて、
水彩で絵日記を描いています。

その絵日記がとても素敵だったので、
TSUMUGIで連載してもらうことにしました。
丁寧に描かれる水彩画と、
素直に綴られるプイファイさんの言葉を
どうぞお楽しみください。
不定期連載、編集・翻訳担当は深谷です。

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Napawadee Rodjanathum(ナパワディー・ロッジャナタム)

通称プイファイさん。
タイのバンコク生まれ。チュラーロンコーン大学インダストリアルデザイン学科を卒業後、イタリアのミラノ工科大学にてストラテジックデザインの修士号を取得。現在は、カセサート大学で講師を務め、プロダクトデザインとイノベーションについて教える他、週末には水彩画のワークショップを開催している。
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3.季節

 
 
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そこが北半球であろうと、南半球であろうと、
季節は、いつもわたしを楽しませてくれます。
季節の移り変わりは、
それまで自分が見ていた世界を
全く異なるものへと変えていく。
そこにわたしは魅せられるのです。
 
 
木が芽吹き、花が咲く。
葉が繁り、やがて色を変える。
動物たちも、季節によって活動的になったり、
休んだり、時には海を越えて移動したり。
 
 
こうした変化は、みなさんにとっては
当たり前のことかもしれません。
でも、わたしのように
タイに生まれ育った者にとってはとても新鮮!
 
 
熱帯気候に属する他の国々同様、
タイの気候は、いつもあたたか、
たいていの場合はあたたか過ぎ。
そして、いつも緑ゆたか。
季節によって変わるのは、
雨の量くらいです。
 
 
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みどりの春、まぶしい夏、
オレンジの秋、そして白い冬。
 
 
こうした季節について、
本で読んだり、映画で見たり、
歌で聞いたりして知ってはいましたが、
それらを実際に体験したのは、
イタリアのミラノで過ごした
3年間の大学院生活でした。
そこで初めて、わたしは
日々の生活の中で季節の変化を感じたのです。
 
 
それは、着るものや食べるもの、
大学や職場への通い方といったことから、
聴く音楽や、服の乾かし方のような
細かなことまで。
ミラノでの生活では、
時間の流れや自然界のリズムが
より顕著に感じられました。
 
 
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もし、「好きな季節は?」と聞かれたら、
わたしは間違いなく「秋」と答えるでしょう。
輝く黄色や鮮やかな赤へと色づく木々や
風のユニークな匂いなど、
秋のすべてがわたしを惹きつけます。
 
 
特に素敵なのが、秋の空気を満たす
メランコリックな雰囲気。
それがどんなものか、
言葉で説明するのは難しいけれど、
わたしにとっては、
ロマンティックで、詩的で、
悲しみと穏やかさが混ざり合ったような
気持ちになるもの。
 
 
ニーチェの「秋という季節は、自然の中より、
むしろ心の中にある」という言葉は、
秋をよく言い表しているなあと思います。
 
 
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今年の10月、わたしは初めて
秋の日本を訪れ、多くの時間を
長野や松本の自然の中で過ごしました。
そして、秋の日本が大好きになりました。
 
 
ある日は、戸隠神社の並木参道で、
樹齢400年を数える杉たちを前に
自分の命のちっぽけさを感じ、
またある日は、
墓地に隣接するカフェの賑わいに、
何か、言い表せないものを感じ。
 
 
秋の日本は、生と死の並列と
驚くほど美しい自然が相まって、
ほろ苦く、けれども穏やかな空気が
流れていました。
 
 
そしてそれは、わたしのメランコリックな
気持ちを深め、鼓動はなんだか緩やかに。
生の儚さに気づき、
今という一瞬一瞬を楽しむことを
思い出させてくれたのでした。